いつもお世話になっております、ルル区長です。
公共工事において「出来高部分払」という制度があるのは土木公務員の方ならご存じだと思います。
この制度について皆さんどこまで理解できているでしょうか?
似たような制度として「前払金制度」もあったりしますが「出来高部分払」との違いは何なのでしょうか?
工事を発注する土木職の公務員ならずっと関係してくる制度だと思いますので、今回の記事ではそんな出来高部分払制度について分かりやすく解説していきたいと思います!
出来高部分払は工期の長い工事において短い間隔で資金の受け渡しを可能にするための制度です
まずは公共工事における出来高部分払制度について簡単に説明しようと思います。
「出来高部分払制度」が何のためにあるかというと、工期が長いような規模の大きい工事において請負代金の受け渡しを短い間隔で行うためです。
工事を請け負った業者は、初期に請求できる「前払金」を除くと基本的に工事を完了させなければ請負代金を支払ってもらえません。
しかし、請負代金額が大きく、工期が半年、1年と長くなっていくにつれて、業者の資金繰りは大変になっていきます。
工期が長い=請負代金も大きいので、大金がなかなか手に入らないまま工事を完了させるには業者も企業としてかなりの体力が必要になってきます。
こうした問題を解決するため「出来高部分払制度」があります。
そして、公共工事における出来高部分払は国(国土交通省)が公表している「出来高部分払実施要領」に倣って各自治体で制度が定められています。
以下に国交省が公開している出来高部分払実施要領の資料のURLを貼っておきます!
「出来高部分払制度」の特徴としては、請負代金額に応じて「複数回請求できる」ことや請求時に「出来高検査」があることが挙げられます。
こうした「出来高部分払制度」の特徴について詳細に見ていきましょう!
出来高部分払の対象となる工事の条件は自治体ごとに異なります
出来高部分払の対象となる工事は国土交通省の「出来高部分払 実施要領」では以下のように定められています。
国土交通省 出来高部分払 実施要領 第2条(対象工事)
「契約業者取扱要領」(昭和 55 年 12 月1日付け、港管第 3722 号)第7条第1項第1号から第5号に掲げる工事のうち、工期が 180 日以上の工事において実施できるものとする。
なお、国庫債務負担行為(以下、「国債」という。)に係る工事について「工期が 180 日以上を超えるもの」とは、全体工期が 180 日を超える工事とする。
ただし、地方自治体では入札参加業者に中小企業が多くなってくることや、発注する工事の規模が国に比べて小さいことからこの条件とは異なる自治体がほとんどです。
地方自治体ではより短い工期でも部分払の対象となったり、工期の代わりに金額の下限を対象条件にすることが多いです。
地方自治体(政令市)では工期が120日~、設計金額100万円~が対象になる場合が多い
ここで、出来高部分払の条件について政令市の例を挙げて説明します。
調べてみた結果、政令市ではおおよそ工期が120日~、設計金額が100万円~の工事が対象になるラインです。
以下に堺市と仙台市の契約規則の条文を引用しています!
堺市契約規則 第36条第1,2項 (部分払)
(第1項)市長は、契約により受ける給付の完了前に、既済部分又は既納部分の代価の一部又は全部を支払うことができる。
(第2項)前項の規定による支払(以下「部分払」という。)は、工事請負契約等については、次の各号のいずれかに該当するものに限り、することができる。
(1) 契約金額が2,500,000円を超えるもの
(2) 工期が120日以上であるもの
仙台市契約規則 第31条第1項(部分払の特約)
市長は、契約金額百万円以上の工事若しくは製造の請負契約又は物件購入契約を締結した場合において、契約の相手方から請求があったときは、契約の履行完了前に、その既成部分又は既納部分に対し検査の上、部分払をすることができる。
このように自治体によって金額と工期の両方の条件を設けていたり、金額のみの条件であったりと様々です。
工期が条件になっていない自治体があるのは前述のとおり、地方自治体の工事だと国が想定しているような工期が長い工事が少ないからですね笑
地方自治体(政令市)では部分払の回数は金額または工期によって決定される場合が多い
次に部分払の回数について政令市の例を紹介します。
基本的に、工事の規模が大きくなるに伴って、部分払を請求できる回数は増えていきます。
部分払の回数も自治体によって金額が条件になったり、工期が条件になったり様々です。
ここでは、「堺市」と「北九州市」の例を引用して見ていきます。
堺市契約規則 第36条第4項 (部分払)
部分払の回数は、工事請負契約等については、次のとおりとする。ただし、国又は大阪府の補助金の対象となっているものについては、この限りでない。
(1) 工期が180日以上のものについては工期日数を90で除して得た回数(1未満の端数切捨て)とし、その他のものについては1回とする。
(2) 堺市公共工事の前金払に関する規則(平成5年規則第20号)第2条の規定により前金払をすることができるものについては、前号により算定した回数から1を減じた回数とする。
北九州市契約規則 第40条第4項 (部分払)
工事又は製造の請負契約で部分払のできる回数は、次のとおりとする。
(1) 契約金額 100 万円以上 500 万円未満:1回
(2) 契約金額 500 万円以上 1,000 万円未満:2回以内
(3) 契約金額 1,000 万円以上 3,000 万円未満:3回以内
(4) 契約金額 3,000 万円以上 5,000 万円以下:4回以内
(5) 契約金額が 5,000 万円を超える場合:4回に 5,000 万円を超える部分の 3,000 万円又はその端数ごとに1回を加えた回数以内
こうしてみると、工期より金額で部分払いの回数を分けたほうが簡単な気がしますね!
また、堺市の契約規則にあるように、部分払の回数は「前払金」の有無とも関係してくる場合がある点には注意が必要です。
部分払の回数も自治体によって本当に多様なので、自分の自治体の契約規則をしっかり把握しておくことが重要です!
地方自治体(政令市)では部分払を請求できるのは出来高が全体の3,4割を超えてからの場合が多い
次に部分払を請求できるタイミングについて解説していきます。
部分払の回数は前述の条件により決定されますがいつでも請求できるというわけではありません。
部分払を請求するにはある程度の出来高を伴っていないといけません。
こちらも自治体によってまちまちですが政令市ではおおよそ全体の出来高の3,4割以上工事が進んでいれば請求できます。
こちらも「仙台市」と「北九州市」の契約規則を引用して紹介しておきます。
仙台市契約規則 第31条第3項(部分払の特約)
3 第一項の規定による部分払は、継続費又は債務負担行為に係る契約の場合を除き、既成
部分又は既納部分が全体の十分の三を超える場合に行うものとする。
北九州市契約規則 第40条第3項 (部分払)
3 第1項の規定による支払(以下「部分払」という。)は、工事又は製造の請負契約については既済部分が契約金額の 100 分の 40 以上に達し、その既済部分が部分払のための確認に係る検査に合格した場合、物件の買入契約については既納部分が検査に合格した場合でなければしてはならない。ただし、工事又は製造の請負契約について市長が特に必要があると認めるときは、既済部分が契約金額の 100 分の 40 未満であっても、その既済部分が部分払のための確認に係る検査に合格した場合には、部分払をすることができる。
こうした条件を設けることで業者が少額で部分払の請求を行えないようになります。
部分払は事務手続きが結構大変なので業者がうかつに請求できないようにしているとも取れますね!
部分払で支払える額の上限は全体の9割までです!
部分払で支払える金額にも上限が設定されています。
これはどこの自治体も大体同じで請負金額の9割以内までになります。
工事でこの条件にかかる機会はないかもしれませんが一応覚えておきましょう!
参考に「堺市」の契約規則を引用して紹介します。
堺市契約規則 第36条第3項 (部分払)
3 部分払の額は、工事請負契約等については、その既済部分に対する代価の10分の9の額を超えることができない。ただし、性質上可分の工事請負契約等に係る完済部分にあっては、その代価の全額までを支払うことができる。
このケースに該当する可能性があるとすれば、工事における金額の大部分を占める工種が完了した後に請求が来た場合などが考えられます!
部分払を請求する際にはその時点での出来高検査を行う必要があります。
公共工事を請け負った業者が発注者(国・地方自治体)に出来高部分払を請求する際は、出来高検査を受ける必要があります。
請求時点までの成果を出来高により確認しなければなりません。
この検査は工事の途中で行われるというだけで基本的に完了時の検査と同程度の検査が行われます。
つまり、業者は工事完了時と同じような書類を準備する必要があります。
請負業者からすると書類の準備はかなり大変だと思います…笑
発注者側も書類をチェックする機会が増えるのでもちろん手間が増えます。
ここだけの話、僕は業者から部分払いの請求が来ると結構嫌な気持になります笑
まあ、地方自治体規模の工事なら業者も面倒だからと請求してこないことが多いんですけどね!笑
部分払と前払金の違いについて
ここまで、「出来高部分払制度」について解説してきました。
このような工事完了前に請負代金の一部を支払う制度で「前払金制度」があります。
この2つの制度の違いはどういった点にあるのでしょうか?
ここからは「出来高部分払制度」と「前払金制度」の違いについて簡単に解説していきます!
「前払金制度」については以下の記事で解説していますので興味のある方は是非ご覧ください♪
部分払は中間前払金との併用ができません
まず一般的な制度についてですが、工事の当初に支払う前払金は一定金額の工事であれば請求することができます。
しかし、「中間前払金」と「出来高部分払」は併用することができません。
これはどちらも似たような性質のものでありながら支払い条件が異なるため併用すると支払金額の計算面で規則に支障が生じるためです。
業者からすれば、工事の概要によってどちらかを選択する必要があるということですね!
請求回数は中間前払金は1回のみで部分払は複数回可能
「出来高部分払」と「中間前払金」の大きな違いの1つに請求回数の違いがあります。
「中間前払金」は工期の半分を過ぎた段階で1回のみ請求することができます!
これに比べて「出来高部分払」は工事金額に応じて複数回請求することができます。
ただし「出来高部分払」も金額が小さい工事だと1回が上限になったりするのでこうなると中間前払金の方が手続きが簡単でメリットがあるようになったりします。
支払上限額は「前払金制度」は全体の6割、「出来高部分払」は全体の9割まで
また、支払える金額の上限についても違いがあります。
前述したように「出来高部分払」の支払上限額は請負金額の9割以内です。
比べて「中間前払金」は当初に支払う「前払金」と合わせて請負金額の6割以内が上限になります。
支払える金額の総額は「出来高部分払」を選択した場合のほうが多くなります!
「出来高部分払」は検査が必要、「中間前払金」は検査が不要
「出来高部分払」は「中間前払金」に比べて支払回数と支払上限金額の点で有利ですが、その分請求時に検査が必要になってきます。
この点がネックで「中間前払金」を選択する業者も多いです。
「前払金」は「出来高部分払」と比べて事務手続きがかなり簡単です。
まとめ
ここまで、公共工事における「出来高部分払」の制度について解説してきました。
まとめると、
- 出来高部分払は大規模な工事において業者が資金繰りをしやすくするための制度
- 出来高部分払の特徴は複数回請求できるが検査が必要な点
- 出来高部分払の制度概要は自治体によって様々なパターンがある
- 「中間前払金」と比べると事務処理が大変な代わりに支払回数・支払額は多い
- 公共工事において「中間前払金」は「部分払」との選択になる
こんなところでしょうか!
この記事が土木職の公務員として働く皆さんの参考になれば嬉しいです。
これからも土木公務員に関する有益な情報を発信していきたいと思います!
それでは、失礼いたします。